vol.1 データ復旧とデータ復旧サービス

2013/06/11

1.データ復旧とは?

世間で認知されている「データ復旧」とは、具体的にどのような物でしょうか。「データ復旧」という言葉は、どのようなときに使われているのでしょうか。

パソコンや携帯電話に代表される電子機器が、冷蔵庫や洗濯機などの家電製品の様に当たり前に各家庭に存在するだけではなく、各個人が1台ずつ所有するパーソナル機器と呼ばれるに等しい状態で普及し、日々のコミュニケーションにも当たり前の様に使用されている現在において、その製品は、コミュニケーションを行うための機器であるだけでなく、利便性の向上を目的とした発達によって、コミュニケーションの内容(情報:データ)やコミュニケーションを行う相手先の情報をもその内部に蓄積しておくための、記録・保存機能も同時に果たす物となっています。何らかの原因で機能しなくなった時には、何もする事が出来なくなってしまうほどの重要な機能を持つ大切な機器となっている事は誰もが疑わないでしょう。

そのような重要な電子機器が機能を果たさないという非常事態に陥り、購入元や製造元に修理を依頼し、その修理が完了して、機器としての機能を回復したときに、その中に蓄えてあった、本来最も必要なものである“情報”が消え去ってしまうような場合でも、情報の管理・保管の責任は使用者にあるため、製造者・販売者に対して、「情報の消失」によって発生する損害に対する補償の請求は出来ないことが原則であることを理解して使っている人が、どの位存在するのでしょうか。そして、その重要な情報を取り戻すための手段が「データ復旧」と呼ばれているのではないでしょうか。このような場合、当然のことながら取り戻した情報は、「内容が正しく、元の状態のまま、使用する事が可能である」ことがその情報の持ち主の要求している条件であることに誰も異議を挟む事はないでしょう。

2.データ復旧サービスとは?

では、「データ復旧」が必要になった場合に、頼りにしなければならない、製造元でもなく、使用者でもない第三者が提供する「データ復旧サービス」は、その要求を完全に満たすことが出来るのでしょうか。

ここで注意する必要があるのは、「データ復旧は、情報を取り戻すための行為そのもの」を指す言葉ですが、「データ復旧サービス」は、「情報を取り戻す、データ復旧と呼ばれる作業を、第三者が提供する」ことを意味しているという事です。

情報という物は、形を認める事の出来ないものですが、消え去ってしまうと膨大な損害を発生させるような無形資産であるが故に、その資産を内部に蓄積している電子機器などの所有者、または管理者として法的に認めることの出来る人間、つまりその情報資産の、法的に正当な所有者や管理者自身が行うのであれば、何の問題も存在しませんが、その情報資産の回収作業を、所有者・管理者以外の第三者が行う場合には、その資産の所有者の危惧する秘密保持などの問題以外に、法的な制限事項が発生する可能性を持っています。

その理由によって、「データ復旧サービス」を正確に定義するのであれば、「正常動作不能な障害を有する電子記録媒体または、電子記録媒体に含まれる電子書式(データファイル:情報)を、その電子記録媒体や電子書式の持つ固有の論理に従って、内容、正誤、可用性に係わることなく、再利用を目的として回収返却することを目的として行う業務の提供」とする必要が出てきます。

このため、本来情報の所有者の要求している、「内容が正しく、元の状態のまま、使用する事が可能である」事について、データ復旧サービスを提供する側が保証することが困難になってしまいます。

そのリスクヘッジを目的として、データ復旧事業者の怠ってはならない事が、データ復旧サービスの対象となるHDDなどの電子記録媒体を受領する時点で、その「電子記録媒体及びその中に存在する情報の、正当な所有者または管理者からデータ復旧サービスの依頼を受けた」という記録を残す事であり、そこで初めて依頼者の意図する「データ復旧」と業務を委託された側の提供する「データ復旧サービス」との間の溝を少しだけ埋めることが出来るのです。このような事実がデータ復旧サービスに存在する事を認識している人が、実際にデータ復旧サービスに携わっていたとしても、ごく僅かしか存在しないであろう事は想像に難くないのではないでしょうか。