vol.2 データ復旧サービスと法律

2013/06/12

さて、データ復旧サービスが法律に抵触する可能性を持つことに触れましたが、実際に問題となり得る法律とは何であって、どの様な問題になるのでしょうか。具体的な法律を挙げると、著作権法、個人情報保護法、児童ポルノ禁止法の3つが代表的なものとなります。

1.著作権法

実例としてこの業界で伝えられているのは、データ復旧の発祥の地とも言えるアメリカでの例です。

まだ、Windows95が発売される前の事ですが、データ復旧業者が某大手のソフトウェア製作業者によって訴訟を起こされました。その訴訟内容は、「ソフトウェアの不法コピーの作成及び不正使用の幇助」ということでした。

確かに、アプリケーションソフトの正しい使用ライセンスを持たない顧客の要求でデータ復旧を行い、データを返却する行為を行った場合には、抵触する可能性が存在します。更に、それらシステムやアプリケーションソフト以外の、顧客の作成したデータファイルであっても、動画、静止画像、音楽、文書ファイルであっても、その内容を正しく認知すると、放送されたTV番組の録画ファイル、他人の撮影(作成)した写真や画像、ファイル交換などで入手したミュージックファイル、電子図書などの複製(コピー)であれば当然著作権法に抵触する可能性があります。パソコンの中には、疑って掛かれば著作権法に抵触しそうなデータで溢れかえっているのが実際なのではないでしょうか。

逆の例になりますが、暫く前にインターネット上で、某大手のデータ復旧業者が、「地デジの録画ファイルは、著作権に抵触するのでデータ復旧は出来ない」と公言していましたが、これは正しいとは言えません。何故かと言えば、「ダビング10」などのシステムが存在するように、個人目的による複製の作成は許されているのです。それよりも、その著作権保護を目的としている暗号化などの手段に邪魔されて、「データ復旧サービス」の原点である、「データをあるがままに回収」しても、返却された顧客が、個人目的の複製であるにも関わらず、それを「再生する手段が合法的に存在しないこと」が問題でしょう。そして、もしそのデータ復旧業者が、地デジの録画ファイルであることを、ファイルの拡張子などで判定しているのであれば、同様に、ミュージックファイル、動画ファイル、電子図書ファイル、なども同様にデータ復旧の対象から除外するような処置・行動を取らないのであれば、著作権法の解釈に対して疑問を持たざるを得ない事になります。そして、実際にミュージックファイルや動画ファイルなど著作権法に抵触する可能性のあるファイルを、データ復旧サービスの対象から除外している業者も存在する事を忘れてはなりません。

2.個人情報保護法

一般的に誤解が多いのがこの個人情報保護法です。個人情報保護法は国際的に見ても、日本特有の内容となっていますが、この法律で規定されている個人情報とは、「生存する特定の個人を識別できる内容」を指していて、「個人がいつ何処で何をした」のようなプライバシーに関する内容ではないのです。そして、更に、この法律の対象となるのは、個人情報取り扱い事業者に限定されます。

個人情報取り扱い事業者とは、「過去6ヶ月の間に、5000件を越える件数の個人情報データベース(整理されている状態を指す)を事業の用に供して取り扱ったことのある事業者」を指します。事業の用に供してと言うのは、その個人情報を何かの目的のために繰り返し利用することを指しますので、大量に個人情報の存在するHDDを顧客の要求でデータ復旧を行ったとしても、そのデータの内容に直接触れることが無ければ、個人情報取り扱い事業者には含まれませんし、過去から5000人以上の顧客からの依頼によるデータ復旧を行った実績が存在しても、その顧客リストを作成して営業目的で使用する様な事をしない限り、データ復旧業者は個人情報取り扱い事業者には生り得ないのです。

3.児童ポルノ禁止法

国会で制定された「児童ポルノ禁止法」では、現時点においては単純所持が含まれていない(改正案は含まれている)ので、気にしていない人も多いのではないかと思いますが、京都府、栃木県、奈良県においては県条例で単純所持が禁止されています。

単純所持とは、簡単に言えば「目的に関わらず所持すること」であり、麻薬所持と同様に、冤罪をたくらむ事が可能な、データ復旧業者にとっては危険な法律です。また、現在においても京都府、栃木県で単純所持が禁止されていると言う事は、東京でデータ復旧サービスを営んでいる業者が、顧客の要請によって、東海道新幹線や東北新幹線で、その顧客の児童ポルノを含むデータを持ってその地域を移動(通過)した場合には、それぞれの府・県条例違反で検挙が可能だということになるのです。

4.どうする事が必要か?

これらの不法行為の疑惑から、データ復旧に携わる自らを守るためにもまず必要なのは、データ復旧の依頼者本人に、データ復旧を依頼する電子記録媒体とその中に存在する情報の正当な所有者・管理者である事を証明する書面の提出を求めると共に、データファイルの内容を認識しないような方法で取り扱う事が必要になります。つまり、データの加工は一切行わない事であり、データ復旧業者が自身で回収したデータファイルに対して知り得る、リスクの無い項目は、ファイルを規定のアプリケーションソフトを使って開くような作業をすることなく確認できる範囲の、「ファイルの名称」、「容量」、「作成日」などに代表される一般的な項目と、そのファイルの回収作業を行うに当たって損傷の発生リスクが存在したか否かなどの、業者自身の作業内容によって知る事の出来る範囲に限定されてしまうのである。

特にデータ復旧の依頼者に親切であろうとすればするほど、その制約に抵触する可能性が高くなってしまうことが現実であり、データ復旧を依頼する側と、データ復旧サービスを提供する側での行き違いが発生し易いことが現実の姿となっています。