vol.1 HDDの磁気記録

2013/06/11

HDDは、デジタル記録媒体である。然るに、内部に保存されているデータは、“0”と“1”である。つまり、プラッタ(円盤)上で、
① 磁化されていないと“0”、磁化されていると“1”となるか、
② N極に着磁されると“0”、S極では“1”となる。または、その逆。
の、ように考えている人が多いのではないでしょうか。

しかしながら、これはどちらも全く正しくありません。

1.飽和磁気記録と未飽和磁気記録

カセットテープやビデオテープレコーダに使われるテープへの記録は、その記録される信号がアナログ信号であるため、信号の強さに比例した磁力をテープに書き込みます。この方法を、未飽和磁気記録方式と呼びます。そして、未飽和記録の場合は、完全に消磁されている状態にした所に新しい信号を書き込みます。ですから、消去ヘッドを持っています。

これに対して、FDDやHDDの円盤(ディスク、プラッタ)へのデータの書き込みは、デジタルデータですから、信号の強さに比例した磁力で書き込む事は必要ないので、円盤に使われている磁性体が、これ以上磁化できない限界の(飽和)磁力になるように書き込みます。これが、飽和磁気記録方式です。

飽和磁気記録では、データの書き込みは、これ以上磁化できない限界に達する強度の書き込みを行いますので、書き込まれる場所に古いデータが残っていても、新しい信号が一定以上の磁気レベルになるように書き込んでしまえば古いデータの影響は排除できるので、消去ヘッドは不要になります。と、言うと、だから上の②が正しいはずだ。と思うかもしれません。でもそれは間違いなのです。それは、電気信号を磁気に、また磁気信号を電気に変換するヘッドの特性によるためです。

2.ヘッドは微分器

円盤やテープの磁性体にデータを書き込む部品は磁気ヘッドと呼ばれますが、このヘッドの読み取り特性が微分特性であることは知らない人が多いのではないでしょうか。ヘッドの微分特性とは、ヘッドを通過する磁束(磁石の力)をΦとすると、その磁束が変化した分が電気信号になるという事で、ヘッドの出力信号をv、時間をtとすると、

v=⊿Φ/⊿t(ヘッドの出力=磁石の力の変化量)なのです。

ですから、N極からS極に、S極からN極に変わる時の出力電圧が一番大きく、N極やS極のどちらであっても連続して存在する場合はヘッドの出力信号は“0”となってしまうのです。ですから、N極やS極を、“0”とか“1”に決めてしまった場合、連続した“0、0”とか“1、1”のようなデータの書き込みは出来ないことになってしまうのです。

例を下に示しておきます。

磁気データ
NSNSNSN1,1,1,1,1,1
NSSNNSS1,0,1,0,1,0

そして、その場合のヘッドの出力波形は下図のようになるのです。

①1,1,1,1,信号のヘッド出力波形
① 1,1,1,1,信号のヘッド出力波形

②1,0,1,0,信号のヘッド出力波形
② 1,0,1,0,信号のヘッド出力波形

お分かりいただけるでしょうか。
・上下のピーク(磁極が変化するので出力の絶対値が大きい)部分が「1」。
・0付近で横向きで変化が少ない(磁極が変わらないので出力が小さい)部分が「0」。
であり、このアナログ波形からデジタル信号への変換を微分回路と積分回路の組み合わせ(ファームウェアの、フィルター定数の設定機能)で行っているのです。