vol.2 アナログ-デジタル変換とリードエラー

2013/06/12

プラッタ(円盤)上に記録されている情報(ヘッドの読み出し波形)はアナログであり、それをデジタル信号として認識している事までを前回説明しました。今回は、そのアナログ-デジタルの変換はどの様に行われるのか、その時の問題点は何であるのかについて説明したいと思います。

1.アナログとデジタル

そもそもアナログとデジタルとの違いは何か。多くの人は、アナログとは、情報を、電圧などの連続した無段階な量(数値)として取り扱うことであり、デジタルとは、情報を区切って、その区切った範囲を代表する量を(0、1などに代表される整数に)数値化して取り扱うこと、の様に説明すると思います。極端には、全ての情報を“0”、“1”に置き換えて取り扱うことがデジタル情報の基本であるという人も存在すると思います。

HDDに記録されている情報(信号)に関して説明する上で、デジタル情報を正しく理解するためには、情報を“0”と“1”で取り扱うだけではなく、“時間で区切って”判定する(取り扱う)ことがデジタル情報処理の基本である事を認識する必要が有ります。

つまり、アナログ情報処理においては、入力信号のレベルを変えたりしたりしても、その加工される信号は出力されるまで、どの様な加工が行われても、「ヘッドなどで読み取ったオリジナル信号の加工物」であることに対し、HDD等のデジタル情報処理においては、「ヘッドで読み取った(アナログ)信号を、定められた時間で区切って、その区切られた区間毎に論理判定を行い、定められたタイミングで、フリップ・フロップやマルチバイブレータ等と呼ばれる矩形波発振回路を用いてデータビット(“0”、“1”:デジタル信号)として新規に作成・出力しているのです。

2.飽和磁気記録におけるA-D変換

前回のヘッドの出力信号を表した図を例に説明すると、区切っている時間は、X軸の数値で、22.5毎になり、この時間をデータウィンドウと呼びます。その中に「プラス或いはマイナスのピーク」があれば“1”、無ければ“0”であると説明しました。この判定を、電子回路の(1)微分器(回路)を用いたピーク(グラフで表した場合の、接線の傾き”0”)の場所の検出と、(2)積分器(回路)を用いた平均電圧の検出、の双方の論理判定(AND)で、行っています。

前回の②1,0,1,0,信号のヘッド出力波形を、

判定条件 微分値≒0と積分値>|0.3|⇒“1”
微分値≒0と積分値<|0.3|⇒“0”として、時間を追って順番に説明すると、

として、時間を追って順番に説明すると、

  1. データウィンドウ:0~22.5では、
    (1)微分器によるピーク(接線の傾き”0”)有り、微分値≒0、
    (2)積分器による平均電圧:0.7=(1/√2)>|0.3| ⇒“1”
  2. データウィンドウ:22.5~45では、
    (1)微分器によるピーク(接線の傾き”0”)有り、微分値≒0、
    (2)積分器による平均電圧:0<|0.3| ⇒“0”
  3. データウィンドウ:45~67.5では、
    (1)微分器によるピーク(接線の傾き”0”)有り、微分値≒0、
    (2)積分器による平均電圧:-0.7=(-1/√2)>|0.3| ⇒“1”
  4. データウィンドウ:67.5~90では、
    (1)微分器によるピーク(接線の傾き”0”)有り、微分値≒0、
    (2)積分器による平均電圧:0<|0.3| ⇒“0”

となっている事が理解できると思います。

ですから、例えばヘッドが正しくトラックの真上に位置しないような事が起こり、ヘッド出力電圧が低下してしまうと、積分器によって得られる平均電圧も低下してしまうので、本来“1”となるはずのところが、“0”と成ってしまい、ヘッドが故障していないにも関わらず「リードエラー」となります。

この論理判定の条件は、実際には以前説明したように、ファームウェアによって管理されており、実際にHDDに組み込まれているプラッタとヘッドの組み合わせ、更にはプラッタ上のトラック位置の磁気特性に対して最適条件になるように設計されているのです。

「オート・ゲイン・コントロール(AGC)」という機能は、ヘッドアンプの増幅率を自動的に調整して、積分器の出力を一定レベルに保つ事によって、この判定条件から外れて「リードエラー」を発生することを防止するためのものであり、そのAGCのレベルも本来は調整の必要は無いはずのものであって、論理判定の条件を変更・調整することが正しく、最近のICでは外部からAGCのレベル調整が可能な様に設計することを止めてしまっていることもご理解いただけるのではないでしょうか。

3.その他のエラー発生原因

ここまで、ヘッド出力信号の波形の状態で、デジタル信号が形成される原理と共に、その波形とエラーの関係についても説明しましたが、リードエラーの発生は、このようなヘッドの読み出し特性・波形によるものだけではなく、データウィンドウとデータビットの時間的位置関係によっても発生します。今までは、微分器によって得られる数値だけを説明してきましたが、デジタル機器に於けるデータは、基準のシステムクロックによって生成されるデータウィンドウで管理されているため、HDDの機械的な要因であるスピンドルの回転ムラ(ワウフラッタ)や、HDD以外の外的・動作環境要因の振動や衝撃による波形の時間的な変動、データの書き込み(着磁パターン)に起因して起こる偏り(ピークシフト)などによって、ヘッド出力波形から判定・生成されるデジタル信号(データビット)の位置が、規定のデータウィンドウの内に収まらない場合も、「リードエラー」となってしまうのです。そして、磁気ディスクでは、このデータウィンドウとデータビットの時間的な位置関係を、ウィンドウマージンまたはタイムマージンと呼び、当然のことながら、データウィンドウの丁度真ん中にデータビットが存在する場合が最大値になる訳です。