vol.6 水平・垂直磁気記録の比較(読み出し時)

2013/06/16

前回までで水平磁気記録と垂直磁気記録について、大きな違いは磁気記録の方法であるため、記録(磁化)時を例に具体的に説明しました。そして、最終的にデータ復旧に持ち込まれるHDDの数が前年度比で約3割も減少するほどの影響があったと説明しました。しかし、この3割の減少は、勿論記録方式の違いによるものではあるのですが、書き込み時だけではなく、読み出し時にも存在する磁気回路としての優位性にも関係しています。そこで今回は、水平磁気記録と垂直磁気記録の違いについて、読み出し時を例にもう一度説明します。

1.水平磁気記録の読み出し

上図は前々回の水平磁気記録の説明で使用した図です。そして、「読み出し」は「書き込み」と丁度正反対の磁気回路動作によって行われます。つまり、「記録媒体上の記録膜に存在する磁気が、ヘッドのコアに巻かれている巻線の中を通過すると、その磁気(磁束)の変化によって巻線に電圧が発生する」となる訳です。(但し、最近のHDDでは、読み出しと書き込みは別の方式が用いられていて、巻線の変わりに、「GMR」や「TMR」素子と呼ばれる半導体(MR:磁気-抵抗変化素子)が使用され、その半導体の両側の磁束の差が抵抗値の変化となる事を利用してヘッド信号を発生させる方式となっています。)ですから、ギャップの両側のコアでどの位の磁極の差(磁界の大きさと向きの違い)が有るのかをどの位の精度で検出する事が出来るのかが、ヘッドの最も大切な特性(微分特性)となり、HDDの記憶容量に直結する訳です。

実際にどの様になるのか順番を追って考えてみましょう。

<読み出し時の磁気回路>

記録膜の発生する磁界は、

  1. 記録膜とヘッドのコアの間に存在する、プラッタの保護層やヘッドの浮上量などの隙間を越えてヘッドのコアに通過してループ(回路)を構成する有効な磁束と、
  2. プラッタの保護層やヘッドの浮上量などの隙間の中を通過して記録膜に戻るループを作ってしまい、ヘッドのコアに到達できない無効な磁束。に分けられ、そのコアに到達した有効な磁束①は、
  3. ギャップを介して直ぐ隣にある反対側のコアから記録層に戻るループを構成してしまう無効な磁束と、
  4. コアによって導かれ巻線や「GMR、TMR」素子に有効に働く磁束に分かれます。

このように、記録膜に記録された情報の発生している磁界も、書き込み時と全く同じ様に、ヘッドの浮上量、ヘッドの持つギャップの大きさによる影響を再び受けてしまうのです。

2.垂直磁気記録の読み出し

上図は前回の垂直磁気記録の説明図に、読み出し時の動作説明のために少し変更を加えたものです。リターンポールのメインポールと反対側にリードポールがあり、リードポールとリターンポールの間に挟まれているものが読み出し専用の「TMR素子」を示しています。

そして、リードポールの下の記録層の発生する磁界が、書き込み時と同じ様に、下地層などを通過してリターンポールに戻り、ループを形成する事が理解できるのではないでしょうか。

書き込み時の動作説明で、水平磁気記録の磁気回路は、漏洩磁束を利用した不安定な方法と表現しましたが、それに対して垂直磁気記録を表現するのであれば、ギャップの間に磁石(記録層)が挿入されている磁束直結と表現しても良いような安定したループ(回路)が形成されるのです。

このように、垂直磁気記録方式には水平磁気記録方式と比較すると、圧倒的な優位性が存在するのです。このために、HDD製造各社が一斉に導入すると、急速な大容量化進行中であるにも関わらず、品質の向上が実現し、データ復旧を必要として業者に持ち込まれる台数が劇的に減少する状況が作り出されることになったのです。