vol.7 発生頻度の高い物理障害(リードエラー)

2013/06/17

水平磁気記録方式から垂直磁気記録方式への移行によって、データ復旧業者に持ち込まれるHDDの数が約3割も減少したことをご紹介しました。しかし、水平磁気記録と垂直磁気記録の違いは、あくまでも磁気記録の方法の違いであって、HDDのヘッドとプラッタ以外の部分に大きな変化はありません。それなのに何故そのような大きな変化(HDDの故障の減少)につながったのでしょうか。そんな疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。その理由は、HDDにおいて発生頻度の最も高い障害が「リードエラー」であるためです。そして、データ復旧業者に持ち込まれるHDDのうち、リードエラーの割合は、水平磁気記録の場合は約7割、垂直磁気記録の場合でも約5割もの比率を占めているのです。

1.リードエラーとバッドセクタ

一般的にPCを使っている専門家と呼ばれるような人たちの中ですら、リードエラーとバッドセクタははっきり区別されず、混同される傾向があります。それどころか、PCを使っていてファイルが読めないこと、つまりHDDのデータの読み出しに係る障害は全て「HDDのクラッシュ」と呼んでしまうことすら一般的なのではないでしょうか。しかし、厳密にその障害の原因が何であるかを正確に切り分けて考えることが本来は必要なのではないでしょうか。

PCを起動するときに、OSを読み込んでいるときにエラーが発生する。PCを再起動しても同じ様にエラーが発生する。何度繰り返しても回復しない。それをリードエラーと考えるのか、バッドセクタと考えるのか。同じエラーが繰り返し起きるのですから、それをリードエラーとせず、バッドセクタと考えることは不思議なことではありません。しかし、データ復旧作業をする側からみると、リードエラーであることが非常に多いのです。簡単に言ってしまうと、長時間放置したり、冷蔵庫に入れておいたりしたら回復するような場合は、リードエラーである確率が非常に高いのです。

①バッドセクタ:

バッドセクタとは、文字通り情報が記録される円盤(プラッタ)上に円周状に設けられたトラック上のデータを管理する最小単位の部分(セクタ)に、材質的な欠陥が存在したり、経時変化などの何らかの原因によって変化してしまったりして、ヘッドで読み取ることが出来なくなってしまったことを指します。ですから、特殊なデータ復旧専用の設備や装置を使っても、2度と読み取ることが出来ません。ですから、長時間の放置や冷蔵庫で回復する可能性は、全くと言って良いほどありません。

②リードエラー:

リードエラーとは、円盤(プラッタ)上に存在する記録(情報)そのものに障害が存在するのではなく、通常のHDDの読み出し動作では読み出すことが不可能な状態ですが、ヘッド交換などの部品交換などの処置を加える必要は無く、データ復旧業者の持つ設備・装置・ソフトウェアや、特殊な技などを使うことによって、読み出すことが出来る状態のことです。

最近のHDDは、ヘッドとプラッタと間の距離(浮上量)が、僅か2nm(1ミクロンの500分の1)程度、書き込まれている情報の幅(トラック幅)は55nm程度と微小になっていて、HDDの周囲の温度などの環境条件、横向きや縦置きなどのHDDやPCの姿勢等の外的・物理的要因によっても電磁的記録の読み出し時に不具合(リードエラー)が発生し易いクリティカルな状態になっているのです。

このためメーカは、HDDに自動的に動作するリードリトライ機能を持たせることによって、そのリードエラーがPCなどのシステム側に認識されてしまうことを予防しているのです。現在の代表的なリードリトライの機能としては下記のような動作を挙げることが出来ます。

  1. リゼロ:ヘッドの位置が正しく制御されていない場合を想定して、一度基準となる原点に戻し、再度目的の位置にヘッドを移動させる。
  2. ヘッドオフセット:HDDの周囲の環境や、姿勢、或いはHDDの機構に起因する原因で電磁的記録を書き込む位置に僅かなズレが発生したことを想定して、ヘッドの位置を正規の位置から意図的に微少な差異をもった位置になるように制御する。
  3. ヘッド浮上量の変更:HDDの周囲の温度変化や気圧の変動による、空気密度の変化によってヘッドの浮上量が変動したことを想定して、ヘッド付近を加熱する等の手段によって浮上量を変化させる。
  4. リードフィルターの定数変更:HDDを取り巻く種々の環境条件の変化や、部品の経時変化による劣化等によって、ヘッドの読み出し出力が変動し、所定のアナログーデジタル信号変換が正常に行われなくなったことを想定して、積分回路や微分回路の定数を変化させる。

こんな機能を必要としているのが実際のHDDなのです。ですから、水平磁気記録から垂直磁気記録方式に変わり、プラッタへの書き込みや読み出しの特性が安定する事によって、HDDのリードエラーの発生率が改善されたことが納得できるのではないでしょうか。そして、それでもデータ復旧業者に持ち込まれるHDDの半数以上の障害内容がリードエラーであることも現在のHDDの状態である訳で、言い換えれば、HDDのヘッドのトラッキングサーボの特性及びリードリトライ機能だけでは現時点でも完全ではないことの証明でもあるのです。